本研究では、ガスフロースパッタ法と呼ぶ本学独自のスパッタ法を利用して、次世代磁気記録媒体薄膜の作製法を開発することを目指している。具体的には、hcp構造を有した微粒子形状のCo薄膜を形成する条件を見出すとともに、その条件を産業用成膜装置として実現できることを実証する。本年度の実績をまとめると次のとおりである。 1.ガスフロースパッタ法によると、ガラス基板などのnon-epitaxial基板上にhcp構造のCo薄膜が成長することを詳細な構造解析から明かにした。MBEや通常のスパッタ法によると、hcp単相のCo膜は成長せず、必ずCoの高温相であるfcc構造が混在した薄膜が成長する。その原因として、堆積蒸気の運動エネルギーが転移温度の熱エネルギーよりはるかに高いことが考えられる。ガスフロースパッタ法においては、蒸気のエネルギーが低いことによりhcp単相膜が得られると期待されたわけであるが、それが実証できた。本実験により、hcp-Co膜の作製法が初めて確立できたといえる。またこの結果は、薄膜成長物理にとってもまったく新しい知見を与えるものである。 2.実際の磁気記録媒体作製が可能となるガスフロースパッタ装置の実現が可能であることを示した。すなわち、今回改良した装置により、直径10cm以上の領域に毎分百nm以上の高速成膜が可能になり、実用装置における性能を確認した。
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