本年度は、バルク半導体を探針として用いた時のSTM/STS(Scanning Tunneling Spectroscopy)測定を行うとともに、バルク以外の半導体材料を探針に用いるための基礎データを集めることを目的として、表面が自己形成InAs量子ドットで覆われたn-GaAsの表面近傍の電気特性を通常のSTM/STS測定で評価した。 ・半導体の劈開によって得られる頂点を探針の先端として用いたSTM/STS測定を行い、探針の持つ半導体的特性が、測定されるSTS特性にどのように反映されるかを調べた。具体的には、n型GaAs、InAs等のバルク半導体を探針または試料として用いて、半導体探針-金属試料、金属探針-半導体試料の両者の組み合わせの場合についてのSTS測定ならびに、これらバルク半導体探針にレーザ光を照射したときの光応答特性の測定を行った。その結果、半導体を探針・試料のどちらに用いた場合においても、微分コンダクタンスデータには各々のバンドギャップが明瞭に現れること、ならびに、GaAsとInAsでは表面空乏化の状況が異なることに対応した光応答特性の違い、言い換えれば異なる表面光起電力効果が観測されることがわかった。これらの結果は、探針の持つ電子エネルギ状態はバルクのエネルギ状態を強く反映したものであることを示している。 自己形成InAs量子ドットで覆われたn-GaAs表面の電気的特性をSTM/STS測定で評価した結果、InAsドットの近傍では、表面空乏化が抑制されており、バルクInAsに類似した性質を有していることがわかった。一方で、観測されるバンドギャップはInAsよりもかなり大きく、GaAsのそれよりわずか小さい程度であることから、量子閉じこめ効果もしくは歪み効果が強く働いていることもわかった。
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