本年度は、探針に適した半導体材料を探ることを目的として、表面が自己形成InAs量子ドットで覆われたn-GaAsの表面近傍の電気特性を、レーザ光照射下でのSTM/STS測定、および導電性探針を有するAFMによる静電引力計測を通じて評価した。 ●自己形成InAs量子ドットで覆われたn-GaAs表面の電気的特性をレーザ光照射下でのSTM/STS測定で評価した。その結果、InAsドットの近傍では光応答信号成分が小さく、一方、濡れ層領域ではバルクGaAsと同様の大きな光応答が得られた。また、時間分解計測によってこの光応答信号が光励起キャリアによる表面空乏層の低減効果に起因するものであることが明らかになった。これらの結果は、InAsドット近傍では表面空乏化が抑制されており、表面に電子が蓄積されやすいというバルクInAsに類似した性質を有していることを示している。 ●上記と同様の試料に対し、導電性探針を有するAFMにおいてバイアス印加時に試料ー探針間に働く静電引力を測定した。ACバイアス印加時に働く静電引力を印加周波数成分とその倍周波数成分に分けて測定することによって、試料表面近傍の空乏化の度合いについて評価できることを示した。また実際に得られた静電引力データから、STM/STS計測と同様、InAsドット近傍では表面空乏化が抑制されていることを示すデータが得られた。 これらの結果、InAsで表面を覆ったGaAsは、表面空乏化が抑制されるため、半導体探針として用いるのに適した材料系である可能性が示された。
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