本研究により、電界放出微小エミッタ用途に適した1Ω・cm以下の低抵抗導電性ダイヤモンド状炭素膜を作製した。成長温度等のパラメータ及び成膜時の水素前処理条件等の制御により、高硬度で抵抗値の低い、導電性有機薄膜であるアモルファス状ダイヤモンド薄膜の作製法及び物性を研究した。導電性ダイヤモンド状炭素膜の導電性の発現機構の分析を通し、より低抵抗な膜の合成法を研究した。この導電性ダイヤモンド状炭素膜を微小フィールドエミッタのコーティングに応用し、良好な電流ー電圧特性を得た。 木下の研究グループが考案したスーパーマグネトロンプラズマCVD装置に原料ガスのイソブタンを導入し、導電性添加物の窒素ガスを混入して成膜実験を行った。導電性の発現機構を分析するため、窒素濃度、全ガス圧力、RF電力、下電極温度の依存性についての実験を行った。堆積速度、ダイナミック硬度、抵抗率の評価、分光光度測定による光学的バンドギャップ、FT-IR測定による膜の化学的構造について分析した。これらの分析より、導電性の発現機構は、膜中キャリアの移動度の向上等といった膜質の向上の影響であると推測できた。水素前処理条件を変える実験も行った。堆積速度及びダイナミック硬度は殆ど変化しないが、抵抗率は0.034Ω・cmまで減少した。この水素前処理に際して、成膜基板の加熱効果が顕著に現れる事を見出した。 この導電性ダイヤモンド状炭素膜を微小フィールドエミッタのコーティングに応用し、良好なエミッション電流特性を得た。この膜を表面にコーティングしたSiフィールドエミッタではエミッション電圧の低減が確認された。また、表面のコーティングによりエミッション電流に対する残留ガスの影響軽減効果が見出された。
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