本研究では、低軌道衛星における多元接続方式の特性を種々の観点から検討した。具体的には、(1)サービスエリアを複数のセルに分割したシステムにおいて、各セルの容量を超えた通信要求を処理するために、各セルにあらかじめ固定的に割り当てた回線と、必要に応じて任意のセルに割り当てられる回線という回線の2重構造を考え特性を示した。また(2)隣接セルの重なりを許したセル配置を行うことにより衛星の移動に伴うハンドオフの失敗の軽減を行う方法の評価をおこなった。これらは、いずれもTDMA方式を前提にした解析を行っている。多元接続方式として符号分割多元接続方式(CDMA)を用いた場合については、(3)衛星のビーム形状が低軌道衛星通信方式に与える影響について理論検討を行った。具体的には、各セルの大きさを均一に保つようなビーム構成と、セルサイズにアンバランスを許し同一のビーム幅をもつアンテナを各セルが使用するような方式の2者を比較し特性を明らかにした。さらに(4)低軌道衛星特有のドプラシフトを考慮し、複数の衛星が同時に可視であるような状況における拡散系列同期手法の検討を行った。この結果、信号強度と搬送波周波数偏差が異なるような信号の同期には、多くの検討の余地があることが分った。またCDMA方式では同一セル内の他チャンネル信号は干渉となり、これをいかに軽減するかがシステムの特性を定める。そこで(5)非線型干渉除去回路を用いる方式や、(6)空間的に能動アンテナによる干渉除去についても検討した。なお(5)(6)は、衛星系ではなく地上系のシステムモデルに基づいた検討を行ったが、低軌道衛星システムへの適用は容易である。この結果、CDMAを低軌道衛星通信システムに用いる場合、これらの干渉除去技術が有効であることが期待できることを明らかにした。
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