研究概要 |
本研究代表者が提案した,一次元非線形エルゴード写象から生成されるカオス2値系列がストリーム暗号システムの鍵ストリームとして有効であることを確認し,確率論的立場による暗号強度評価法の検討,暗号通信への応用を行なったので,以下にまとめる. 1) 離散力学系の基礎に関する初学者向けの教科書をまとめた.特にカオス2値系列の暗号通信への応用と題する節を設け,a)カオスビット系列に基づいたストリーム暗号,b)カオス2値系列の暗号学的強度,c)カオス同期現象に基づいた暗号システムとの差異,d)スペクトル拡散(Spread Spectrum)通信を用いた画像伝送,について述べた. 2) 暗号生成器から生成される系列がi.i.d.の場合,暗号文を解読することは原理的に困難であろう.0,1の2値系列がi.i.d.のとき,ある長さmのパタンの頻度に関する頻度分布はガウス分布に従うという中心極限定理が成立する.したがって,確率論的立場による暗号強度評価法として,暗号文のパタンの頻度の期待値と分散を調べる評価法が考えられる.このテストはm次および2m次の相関関数を同時に調べることになる.i.i.d.2値系列が等確率でない場合について,確率ベクトルに関するパタンとクラスの頻度の期待値と分散を理論的に評価し,数値実験を行なった. 3) 理想的なi.i.d.の2値系列となるための写像のパラメタや閾値設定の条件を調べ,2次および高次の自己/相互相関関数を評価した.計算機シミュレーションの結果,カオス2値系列がストリーム暗号システムの鍵ストリームとして有効であるだけでなく,スペクトル拡散通信における拡散符号としても有効であることを確認した.さらに,任意に与えられたマルコフ情報源や木情報源の構成法についても検討した.
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