本年度は、カオス的パルス系列発生器(CPG)を基本とする高性能の秘匿多重化通信方式を構築するための基礎技術を確立することを目的として研究を進め、以下のような成果を得た。 (a)情報符号源構成の基礎として、CPGに周期パルスを印加することにによって、カオスに潜在する不安定周期パルス(UPP)の内の所望のものを抽出する手法を構築した。同手法においては、印加する制御信号の周波数と位相によって、抽出できるUPPの周期の精度が決まるが、その関係は、力学系理論によって解明された。 (b)UPPを単位情報として、これを多重化して伝送し、受信側では、動的な自己組織化神経回路網を応用した多重分離回路を用いて情報信号を分離し再現する手法を構築した。同手法における多重化信号分離が可能な初期値とパラメータに関する十分条件を導出した。また、多重化による信号の秘匿性、情報伝送の効率、および信頼性しついて、その基礎事項を考察した。 (c)系を集積回路化するための基礎として、MOSによる実装回路の等価回路を試作し、系の動作を確認した。また、系のパラメータが大きくゆらいだ場合等の、理論的裏付けが困難な環境における系の基本動作も実験的に解明した。
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