本研究は、電磁波による人体モデルでのSAR値をFDTD法を用いた計算機シミュレーションにより求め、電磁波の生体的問題について定量的評価を行うことを目的としてスタートし、1996年9月の電子情報通信学会ソサエティ大会では携帯電話と人体頭部について1997年3月の電子情報通信学会総合全国大会では、近傍電磁界による影響とシールド効果について発表している。一方、情報機器の普及に伴い、無線LANの利用が進みつつあるため、無線LANと生体との相互作用に着目し、電磁波が人体に及ぼす影響や人体による無線システムへの影響についても研究を進めている。移動する人体による電磁波の遮断・散乱について計算機シミュレーションを行うために、人体モデルを仮想した誘電物体が任意方向に移動する場合の電磁波の影響について研究を行った。これらの結果は1997年11月の電気学会電磁界理論シンポジウムを始めとする学会発表の後、1998年4月にIEICE論文誌に掲載された。さらに、1999年8月のFESS99、1999年9月のICEAA99などの国際会議で発表の後、2000年5月に論文誌EW&ESに掲載が決まっている。また、無線LAN使用下における人体による信号劣化についての研究を計算機シミュレーションと実験両面から行い、この成果は、2000年3月の電子情報学会総合全国大会で発表の予定である。従来のFDTD法では困難であった移動する人体と電磁波についての数値解析を可能にするツールを開発したことで、より具体的なデータを得ることができたと考える。このように、人や物体が移動する場合の電磁波の影響と人体による無線システムへの影響について研究を行ってきた結果、上記に述べたように、ほぼ所期の目的を達成することができた。移動体通信機器の時代を迎え、電磁波と人体との相互作用についての研究であり、重要な意味を持つものと考える。
|