液体中の微小粒子を外部から非侵襲的な方法で自在に操ることができれば、医学、遺伝子工学、計測制御など広い分野で多くの応用が期待できる。従来から、レーザー光を用いた方法が提案されてきているが、この方法では、生体細胞など光に対して不透明な媒体に対しては利用が難しいという欠点がある。本研究では、我々の研究室で開発したダイナミック位相シフト法を用いて、微粒子の新しいマニュピュレーション法を研究開発することを目的としている。この方法では、1)従来の定在波法と比べて、マニュピュレーションのために力を加えられる領域が局在しており、このため、微粒子1個づつでの操作が可能、2)定在波法に比べて、一方向のみから超音波を加えればよいので系の構成に対する制約が少ない、などの利点がある。本年度は、まず、ダイナミック位相シフト法の詳細な理論解析を行った。この過程で、分割凹面振動子と、精密位相制御による音場の制御法を新たに考案した。この方法によれば、微粒子の流れをあらかじめ指定した箇所に集める“非侵襲的な微粒子流れの制御"が可能になる。次に、半径30ミクロンのポリスチレン微粒子と、周波数5MHzの収束超音波を用いた基礎実験系を構成し、微粒子の平行移動、流体中での微粒子の捕獲、集合、濃縮など複雑なマニュピュレーションを行うにあたって基本となる各種制御技術の確認実験を行った。これらの基礎実験結果は、雑誌"ULTRASONICS"に投稿し、現在in printingの状態にある。今後、ポリスチレン微粒子や、生体組織のその音響特性が類似しているデキストラン微粒子などを使い、具体的な応用を想定した実験を行っていく予定である。
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