研究概要 |
大脳皮質聴覚野のスライス標本に光学的計測法を適用し、興奮伝播の時空間パターンを調べた。ラット大脳皮質よりマイクロスライサ-を用いて、皮質聴覚野の薄いスライス標本(厚さ400μm)を前額断に切り出し、電位感受性色素であるRH482(NK3630)で染色した(0.1mg/ml,15分)。倒立型顕微鏡に設置した記録用チェンバーにスライス標本に入れ、刺激電極を白質と皮質第6層の境界に置き電気刺激を行い、700±30nmの干渉フィルターを通した光を標本に照射し記録を行った。光学的計測装置には、128×128チャンネルのイメージセンサーを用い、0.6ms毎に記録し、16回加算平均を行った。 白質と第6層の境界を刺激すると、興奮は脳表面に向かう層を横切る方向と、第5・6層に沿う水平方向に拡がった。脳表面に向かった興奮は、第2・3層に達すると、振幅が増大し、この層に沿って時間と共に大きく拡がった。この水平方向への興奮の伝播は、大脳皮質の主要な興奮性伝達物質であるグルタミン酸のレセプターのうちの、non-NMDA型レセプターの桔抗剤であるCNQXによってブロックされたが、NMDA型のレセプターの桔抗剤であるD-AP5によってはブロックされなかった。 従って、大脳皮質聴覚野においては、第2・3層における興奮が特に強く、水平方向に時間と共に広く拡がることが分かった。この皮質聴覚野における水平方向の活動の拡がりは、皮質視覚野における水平方向の拡がりよりも約2倍大きかった。
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