大脳皮質聴覚野のスライス標本に光学的計測法を適用し、興奮伝播の時空間パターンを捉えることにより、皮質内の信号伝達様式を調べた。ラット大脳皮質より皮質聴覚野のスライス標本(厚さ400μm)を前額断あるいは、水平断に切り出し、蛍光型電位感受性色素であるdi-2-ANEPEQで染色した。倒立型顕微鏡に設置した記録槽にスライス標本を入れ、白質と皮質第6層の境界および第2・3層の電気刺激を行った。標本を520±45nmの励起フィルターを通した光で照射し、グイクロイックミラー(575nm)とバリアフィルター(>610nm)を通して標本からの蛍光を記録した。光学的計測装置には、128×128チャネルのイメージセンサーを用い、0.6ms毎に記録した。 白質と第6層の境界を刺激すると、興奮は第5・6層に沿って水平方向に拡がると共に、脳表面に向かった興奮は、第2・3層に達すると振幅が増大し、この層に沿って水平方向に大きく拡がった。また、第2・3層を刺激すると、興奮は第5・6層にはあまり拡がらなかったが、第2・3層に沿って水平方向に広く伝播した。さらに、水平方向の興奮伝播に、上顆粒層と下顆粒層との相互作用が必要かどうかを確かめるために、上顆粒層と下顆粒層との間を切断した。この切断後も、第2・3層刺激による水平方向の興奮伝播には、変化がなかった。白質と第6層の境界刺激の場合には、この切断後、第2・3層における興奮伝播は消失したが、第5・6層における水平方向の興奮伝播には、変化が見られなかった。この結果は、前額断、水平断で同様であった。 従って、大脳皮質聴覚野において、上顆粒層における水平方向の興奮伝播と下顆粒層における水平方向の興奮伝播は、互いに独立に起こり得ることが分かった。
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