研究概要 |
この研究は,偏波情報を取得できる合成開口FM-CWレーダを用いて,ターゲットの散乱行列を計測し,それによってターゲットの分類・認識がどこまで可能かを実験的,理論的に調べることを目的とした。 本年度は偏波合成開口FM-CWレーダの作成と改良を行った。従来のレーダシステムは偏波情報を扱うことはできたが,実時間ではなく,必要な走査幅でレーダイメージを取得した後に,アンテナの偏波方向を変更して再設定し,再び同じ走査を繰り返すものであった。そして,3回の測定終了後に散乱行列を取得していた。本年度は,これを同時に計測できるように,送信アンテナを2つ,受信アンテナを2つ,合計4個のアンテナをピンダイオードスイッチにて数msで切り替えられるように設計変更した。その結果,ほぼ実時間で偏波情報の基本となる散乱行列を取得することができるようになった。 次に,散乱行列の分解について,偏波基底ごとに代表的な物体の散乱行列の比較を行い,直線偏波基底と円偏波基底では同じターゲットでも散乱行列の要素の表れ方が異なることを理論的に確認した。分解に最も適している基底は円偏波である。しかし,高分解能FM-CWレーダのような広い周波数帯域を使うレーダでは,使用帯域にわたって純度の高い円偏波を発生させるアンテナを作ることが難しい。使用するアンテナはホーンのような広帯域で直線偏波の純度がよく,測定や校正が簡単なものが望ましい。そのため,理論的に直線偏波の基底変換を行い,測定散乱行列を円偏波基底に変換した後,分解を試みた。その散乱行列によって,ターゲットの構成部分(線状,面状,球状)の識別,その分解方法の検討,また,どのような傾きで配置されているのか?などの事柄を調べた。10GHz帯のレーダでモデル実験を行い,一秒間に44回の散乱行列の取得とその分解が可能となった。この実験結果はターゲットモデルとも良く一致しており,その有効性が確認できた。
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