適応フィルタの研究は電気通信の広い分野や能動騒音制御の分野で行われ、近年、帯域分割型サブバンド構造の適応フィルタを用いることが提案されている。しかし、従来のサブバンド適応フィルタの出力には伝送遅延があり、能動騒音制御などへ応用するには大きな問題がある。最近、遅延のない構成法がMorganとThiにより提案された。 本年度は、この手法のより詳しい定量的解析を行い、より良い構成法を見いだした。遅延のない構成として提案されているのはサブバンドのタップ係数から周波数サンプリング法によりフルバンドのタップ係数を求めて出力信号を生成する方法であるが、その性能評価が定量的になされていない。そこで、LMS型の適応アルゴリズムの停留点がフルバンドの最適フィルタ(ウィナー解)に対応しているか、また、フィルタバンクを用いてサブバンドに分割する際、フィルタが理想特性でないために生じるエリアシングの影響はあるのかどうか、さらに、フルバンドの係数への変換でより良い変換があるかなどの点を研究した。 上述の新しいMorganらの構成法の解析は定性的で不完全な結果となっている。詳しく検討した結果その変換は正則でなく、したがって、一般にフルバンドでのウィナー解に対応するサブバンドのタップ係数は存在しないことがわかった。そこで、上記の変換を簡略化、正則化し、かつ高速に計算できるアダマ-ル変換を提案し、そのアルゴリズムの停留点の解析を行い、フルバンドのウィナー解となっていることを示した。これらの研究はもっとも単純な、しかし、見通しの得やすい2バンドの場合について行い、次に2バンドの結果を一般の2のベキ乗のバンド数の場合へ拡張した。また、射影アルゴリズムを用いて収束速度を改善することができるかどうかについても検討を加えた。
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