研究概要 |
バイオ産業に用いられている培養法の中でも重要な固体培養,特に,生産規模の大きなきのこの菌床培養において,培養の管理に資するために,非破壊計測法の一つである近赤外分析法を用いて,培養中の微生物の増殖などの情報を得る技法を開発し,培養の効率化,安定化,高生産性化をめざした。一般に培地として用いられるおが粉,米糠,小麦麸の混合物を調整する工程に用いられる自動培地調製機の開発を試みた。おが粉,米糠,小麦麸混合物中の各成分含有量と混合物の水分含有量の管理に近赤外分析法を応用した。水分含有量の計測には,原スペクルにおける,水由来の吸収が観測される1450mmの吸光度値を用いれば,従来分析法による水分含有量との間に,相関係数0.997と非常に高い相関が得られることが明かになった。また,米糠含有量の計測では,2次微分スペクトルにおける,米糠由来の吸収が観測される672nmと2100nmの吸光度値を用いれば,混合比から算出した米糠含有量との間に,相関係数0.975と高い相関が得られることが明かになった。光ファイバー式のプローブを利用する等により,センサー部を混合機に取付ければ,現在職人の経験と勘に頼っている培地原料の混合と水分調節が完全自動化されることになる。さらに,漢方薬として利用されている霊芝(Ganoderma lucidum)を,実生産規模と同じ大きさの培養袋を用い,蜜柑搾汁粕,コーヒー抽出粕,烏龍茶抽出粕,紅茶抽出粕を培地として培養を試み,これらの培地としての適性,培養中の管理項目の選定等を行なった。その結果,蜜柑搾汁粕とコーヒー抽出粕はきのこ栽培の菌床培地として大変適していることが明かとなった。培養管理に適する項目としては,計測が比較的容易な菌床の重量が有望であり,菌床重量と近赤外分光法による菌体量計測とを組み合わせた高度な管理法が提案されうる。近赤外分析法は数分の所要時間で各種成分が測定可能であり,きのこの菌床培養における培養管理に大いに役立つことが示唆された。
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