研究概要 |
地磁気程度の磁場が生体に及ぼす影響のうち、特に松果体において合成・分泌されるメラトニンへの磁場の作用が最近注目されるようになってきた。メラトニンの合成・分泌リズムは約1日を周期とするいわゆる慨日リズムに従っており、通常、夜間に合成・分泌量は増加する。このメラトニンの夜間における合成・分泌が磁場照射により抑制されることがわかってきた。しかしながら、磁場がメラトニンの合成・分泌を抑制するメカニズムはまだわかっておらず、磁場が生体リズム生成システムのどの段階に作用しているのかはまだ解明されていない。 本研究では、生体リズム生成システムと磁場との関係の解明を目指して、生体リズムの発振源である視交叉上核の活動に対して商用周波数の磁場が影響を及ぼすかどうか神経細胞の電気的活動の測定により検討を行った。 磁場照射実験は4種類行った。まず、対照実験として地磁気とほぼ同じ強度である40μTの直流磁場を鉛直下向きに照射する実験を行った。次に、商用周波数磁場の照射実験として、50Hz,Peak-to-Peak40μTの磁場を照射する実験を3通り行った。すなわち、40μTの鉛直下向きの直流磁場に加え、50Hz磁場の方向が、体軸と平行な方向(X軸方向)、水平面内で体軸と垂直な方向(Y軸方向)、鉛直方向(Z軸方向)になるように磁場を照射する実験をそれぞれ行った。いずれの実験においても60時間の磁場照射下、恒暗の条件での視交叉上核の神経細胞のインパルス頻度の変化を双極微小電極により測定した。 対照実験では、視交叉上核の電気的活動には約24時間を1周期とする周期的活動変化が観察された。周波数50Hzの磁場の照射実験のうち、Z軸方向に照射した実験では対照実験と同様の周期的活動変化が見られたが、X軸方向あるいはY軸方向に50Hz磁場を照射した場合は周期的活動の乱れが観察された。
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