本研究では非線形振動子における秩序形成を用いた化学センシングの可能性を検討するため、第1ステップでは、塩水振動子群のシミュレーションを行い、第2ステップでは、非線形振動子群としてpoly(IPAAm-co-Ru(bpy)_3)ゲルを用いた自律振動ゲルによって繊毛状のマイクロ構造体を作製し、そこにおける秩序形成の確認と外部環境との相互作用についての基礎研究を遂行した。その結果、以下の成果を得た。 1.塩水振動子群のシミュレーションでは、1つの塩水振動子では、パラメータ変化による周波数の挙動変化が、ほとんどないことがわかった。それに比べ、9つの非線形振動子群では、パラメータ変化による周波数の挙動に大きな変化が現れた。このことより、1つの非線形振動子では検出できない挙動のわずかな変化を非線形振動子群の秩序形成を利用することにより、非線形振動子の周波数の大きな変化として検出可能であることが明らかになった。 2.世界で始めて自律振動高分子ゲルに3次元突起アレイを形成した非線形振動子群を作製し、高分子ゲル突起アレイに形成される秩序構造としての化学反応波の伝播様式の観察と、化学反応に伴う高分子ゲル突起アレイの伸縮運動の観察に成功した。突起付きpoly(IPAAm-co-Ru(bpy)_3)ゲルでは、どこか一点に強い振動(刺激)があれば、その点を起点とした秩序が形成され、周期的な膨潤収縮が起こることがわかった。 非線形振動子群の秩序形成に基づいたセンシング方法が、新しい化学量の検出原理として可能性があることがシミュレーションによって明らかとなった。今後の展開研究において、高分子ゲルを保持する環境の変化が化学反応波の伝播様式に与える影響を解明すれば、これらの高分子ゲル突起アレイの伸縮運動をセンシングに適用できる見通しを得た。
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