研究概要 |
本研究は、ウェーブレット解析を用いて合成開口レーダ(SAR)画像のフラクタル次元を推定し、ターゲットの特徴量としてのフラクタル次元の有効性を考察するものである。 本年度の研究では、まず、SAR画像を統計的フラクタルの代表的なモデルである非整数ブラウン運動でモデル化し、ウェーブレット変換に基づく多重解像度解析により、そのフラクタル次元を推定した。多重解像度解析によるフラクタル次元の推定法は、1次元信号に対して既に提案されている(P.Flandrinによる)。我々はこれを2次元画像に対して拡張し、1次元の場合と全く同様の手続きでフラクタル次元を推定できることを数学的に示した。 次に、上の推定法を多重観測パラメータを有するSAR画像に適用した。実際に使用したデータは、NASA/JPL所有の航空機搭載SAR(AIRSAR)が取得した多周波(P,L,Cバンド)、フルポーラリメトリックなものであり、HH,VV,HVの代表的な偏波の画像を生成して、対象画像とした。また、スペックル低減の前処理を施した画像も対象に加えた。この結果、以下のことが明らかになった。 1.対象SAR画像は非整数ブラウン運動によりよくモデル化され、これをフラクタル的に解析する意義は確保されている。 2.SAR画像のフラクタル次元は、観測パラメータ(周波数、偏波)により異なる。 3.SAR画像のフラクタル次元は、スペックルの有無には不感である。 SAR画像におけるフラクタル次元は、撮像された地表面の起伏の激しさ、複雑さを捉えるものである。上の2.は、SARの波長の長短や偏波の相違により、これらの複雑性の記述のされ方が異なることを示唆する。このことは、フラクタル次元が多周波・多偏波なSAR画像のターゲット理解に新たな視点を与える量であることを意味し、3.のスペックルとの関係と合わせ、高精度な土地被覆分類/領域分割手法の特徴量となると考えられる。
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