本研究は、コンクリート構造物を対象として、コンクリートあるいはコンクリート部材の劣化が、耐荷性、耐震性、耐疲労性あるいは美観保持性といった構造物の諸性能に及ぼす影響について時間との関係で定量化させることを目的としたものである。本年度に得られた結果を取りまとめると以下のようである。 (a) 昨年度開発した塩害シミュレーション手法を用いて、コンクリートに生じる種々のひび割れが鉄筋腐食に及ぼす影響を定量化することを試みた。その結果、ひび割れ幅が同じであっても、コンクリート自身の品質が異なることによって鉄筋腐食に及ぼすひび割れの影響は異なり、コンクリートの自体の品質が悪くなるほど、(1)腐食発生までの年数に及ぼすひび割れの影響はかえって小さくなること、(2)腐食ひび割れ発生までの年数はひび割れがあるほど早くなること、などの状況を定量的に把握できた。 (b) 鉄筋腐食が鉄筋コンクリート部材の疲労特性に及ぼす影響について、孔食の影響を考慮した鉄筋腐食の進行に伴う梁部材の疲労耐力低下予測式を提案した。また、この式より得られる結果と電食により鉄筋腐食を生じさせた鉄筋コンクリート供試体の疲労実験結果とを比較検討することにより、この式の妥当性を確認した。 (c) コンクリートの一部にジャンカを有する鉄筋コンクリート梁供試体の疲労特性について検討を行った。その結果、(1)静的な耐荷力には大きな影響を与えないようなジャンカであっても疲労耐力の低下に及ぼす影響は大きいこと、(2)ジャンカ部をポリマーセメントモルタル注入などによって補修した場合には静的耐荷力の回復は見込めるものの、疲労耐力の大幅な向上は見込めないこと、などを確認した。 (d) 温泉環境下におけるコンクリートの暴露実験結果から、昨年度の本研究において提案したコンクリート劣化予測式の妥当性が確認された。
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