研究概要 |
本研究は富里ダム流出試験地に代表される少雪寒冷地域の特異な融雪流出特性のみならず,年間を通した流域の水収支,水文サイクルの解明を目的としている。 本年度は流域試験地の従来からの水文観測体制に加え,融雪量の解析に必要な風向・風速,湿度,放射収支量等の気象要素の観測体制を充実し,水文・気象データの蓄積を計っている。したがって,1997-1998年融雪期の解析は,データの回収を待って次年度に行う。今回は1996-1997年融雪期の観測から得られた新たな知見と融雪流出特性に影響を及ぼす凍結土層の予測モデルについて,以下に要約する。 1.1996-1997年融雪流出特性 積雪が最大で1mと少ないにも関わらず流域の土壌凍結は最大で20cmとそれほど大きくない。この程度の土壌凍結の場合,これまでの観測結果から融雪流出の形態は4月下旬からの融雪最盛期に流出量が一気に増加するタイプと予想された。しかし,この年は例年より早く3月下旬から融雪が始まり,積雪も少ないこともあって,規模の小さな4つのピークを持つハイドログラフを示し,融雪流出に対する土壌凍結の影響が明確に表れていない。 2.凍結深の予測モデル 土壌凍結は地表面における熱収支モデルから推定することができるが,放射収支等の詳細な測定が必要である。実流域では地表面が積雪に覆われ,気温と積雪深から凍結深を予測する方法が実用的である。本研究は,凍結深の増加に影響を与える積算寒度と積雪深,また凍結深の減少に関与する積算暖度を説明変数とする重回帰分析を行い,良好な予測式を得ることができた。 3.他流域における融雪流出特性の解明 少雪寒冷地域に属する鹿ノ子ダム流域(流域面積124km^2)の融雪流出解析では,水文データの精度に問題があり,土壌凍結の有無による融雪流出特性の違いを明確にするまでには至らなかった。次年度は更に他流域の水文データを収集し,融雪流出に対する土壌凍結の影響を定量化する予定である。
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