研究概要 |
河口付近にある閉鎖性の高い汽水湖では海水の流入により塩分濃度が高い下層と淡水の上層からなる密度跳層を形成している.このような水域では地形,潮汐や風浪などによって独自の流れ場を形成している.近年ではADCPのような画期的な計測装置がDGPSと共に導入され,現地における流れ場の観測に役立っている.しかしながら,湖沼といえども10kmスケールの大きさを有しており,潮汐等によって時事刻々と変化する流れ場を少ない観測網で捉えることは今なお難しい. 本研究ではこのように密度跳層が形成されている閉鎖性水域での湖水の流動を観測するために,トラックポイントシステムという流体塊の流動追跡システムを開発し,これにより時間とともに湖水が実際にどのように移動したのかを追跡している.トラックポイントシステムとは密度を調整した浮体にトランスポンダを装備し,これを密度成層中に浮遊・移動させ,その位置を超音波の送受信によりその3次元座標を計測するというものである. まず,測定精度と測定可能の検証実験を行った.測定間隔を10秒として計測すると超音波の反射や屈折などによりその位置はばらついたように計測させる.しかし,その計測結果を1分程度の幅で移動平均することによってDGPSと比較しても十分な精度でトランスポンダの3次元座標が得られることが分かった.また,計測可能範囲はほぼ1km程度であることが分かった.次にこのシステムを閉鎖性の強い島根県中海米子湾に適用し,現地観測を行った.その結果,トランスポンダはADCP等で計測された流れの速度で移動し,その位置を十分追跡できること,潮汐によって流体が移動する範囲は狭く数kmである事などが分かった.また,中海内の流れは潮汐の他に風や地形に大きく影響されていることが明らかになった.
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