研究概要 |
本研究は清廉な水質からわずかに汚濁が進行した山間地湖沼について流域の汚濁負荷と湖内における負荷機構の検討を行い,山間地の閉鎖性水域における水環境の保全に寄与することを目的として調査検討を実施した。研究対象は磐梯朝日国立公園裏磐梯地区の小野川湖であり,水質は中栄養で,リンを汚濁の制限因子としている。上流には湖容量が約11倍の桧原湖があり,流域と桧原湖の流下水量が本湖へ流入するため,湖沼水の回転率は22回/年程度の高い値となっている。しかし本湖は夏期に明確な成層を形成すること,さらに底泥からの栄養塩溶出による内部負荷量が大きいことが特徴であり,山間地における成層型湖沼の一典型を示している。 検討の第一は湖への負荷源の同定と負荷量の推定,そして湖内における栄養塩類収支に関するものであり,負荷原単位法を用いた負荷量の推定と湖内負荷との比較を行い,全窒素とBODは湖内における内部生産が大きいことを示した。また,本課題以前の計測データを加えて流動層と深水層における負荷量を推定した。その結果,1993年には流動層における硝酸態窒素濃度が高く,成層期の微流動層においてもその発現がみられているが,その後発現量は小さくなり,1997年からは秋期にかけての微流動層における硝化反応が明確となった。1993年は上流域にスキー場が開場した年であり,開発の影響が少なくなるのには4年程度を要することが認められた。第二は底泥からの栄養塩の溶出機構と輸送機構の検討であり,微流動層におけるアンモニア態窒素を鉛直一次元の拡散式によりモデル化した。さらに,現地データをもとに脱窒速度を評価した。第三には湖内流動と水温計測から湖内の熱収支を検討し,本湖では桧原湖からの移流熱量が卓越するが,成層期は流動層を通じて速やかに排出されること,また擾乱した成層状態の快復に大きく寄与することを示した。
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