本研究は、特に乾燥・半乾燥地域を対象にして、そこで生起している地面蒸発と塩類集積の関係を実験的・数値計算的に明らかにすることを目的としている。得られた成果は以下の通りである。 1. 実験においては、中国北西部の砂丘砂を用いた砂層に制御された気象条件を与えて蒸発実験を行った。その際、現地での状況を参照して、低水分量(field capacity)の一様分布を初期条件に、また境界条件(気象条件)としては、一定な温・湿度の大気、一定強度の照射を与えている。その結果、1)水分(液水、水蒸気)や土壌水中の塩類(土壌粒子からの溶出)はボルツマン変換を介した相似的な挙動が見られ、蒸発強度や蒸発域の深さは経過時間の平方根にそれぞれ逆比例及び比例して変化した。2)照射条件は蒸発を抑制する方向に作用したが、これは蒸発により生じた水蒸気が下方にも輸送されることによる。3)また、土壌水の高濃度化(塩類集積)はdrying frontの乾燥域で起こり、そこでの水蒸気密度の低下を導いたが、塩析出による水蒸気移動抵抗の増加は実質上認められなかった。さらには、長時間の加熱・乾燥の気象条件を経た後(蒸発面はかなり降下)、夜間と昼間に対応する無加熱・湿潤-加熱・乾燥の周期的に変化する条件を与えて実験を行ったが、4)砂層内での比較的浅い部分での蒸発-凝結サイクルが蒸発過程に重要な役割を果たすこと、またそこでは顕著な塩類集積が生起することが分かった。特に、夜間では大気側より地面へ侵入した水蒸気は比較的浅い所で凝結していた。 2. 数値計算においては、土壌水への土壌粒子からの溶出過程を含んだ水分-塩類の移動の計算スキームを完成させ、実験条件を参照にして蒸発場での水分・塩類の挙動を詳細に検討した。その結果、実験で見られた蒸発-塩類集積の特性は数値計算で再現でき、また実験では測定できない砂層内の蒸発強度分布などの情報提供ができ、現象の理解を高めることができた。
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