研究概要 |
太陽放射紫外線(UV:Ultraviolet)は,可視域に近い方からUV-A(400-320nm),UV-B(320-280nm),UV-C(280nm以下)に分けられる。UV-Aと可視域は地上に到達し,UV-Cは大気成分に吸収され地上に到達しない。UV-Bもオゾン層で吸収され地上に到達しないとされてきたが,フロン等によるオゾン層破壊により,我国でも地上到達UV-B増加が報告されている(気象庁,1997;佐々木ら,1997)。UV-Bは,日焼け,皮膚ガンを引き起こす。白内障は眼のレンズの水晶体が白濁し光の世界を失うもので,UV-Aも関与する。可視域・青領域の光も網膜の視細胞に傷害を引き起こす。基礎データ(吉村,1997)から,都市化という環境変化によって反射が増幅し私たちの居住空間の紫外線環境が悪化している可能性が高い。分光スペクトル特性に基づき,都市に緑を設計することにより有害紫外線環境の緩和ができる。葉の紫外域透過性は種によらずゼロなので,明るい木陰の創出のためには可視域透過の高い樹種を選択すればよい。また,UV-Bは季節変動が大きく,UV-Aは夏に冬の2倍程度であるのに対し,UV-Bは夏には冬の5〜6倍もの強度がある(佐々木ら,1997)。落葉樹は紫外線が強烈な夏には葉を繁らせて木陰のシールド(shield)となり,日差しの弱い冬には落葉して光を採りこめる。樹木の根系が育つためには土壌が必要である。樹木の下層に季節の彩りと香りのある低木や草本植物を設計すれば,土壌育成と保全ができ反射光の軽減効果も得られる。また,構造物のつる植物での被覆も反射紫外線が軽減できる。設計素材に地域性のある種を用いることにより,生物多様性国家戦略の理念にも合致する。植物の可視域特性には自然の光効果(rendering:レンダリング)の関与があり(吉村,1998),景観面,熱環境緩和(梅干野ら,1983,1995)からも季節変化を考慮した統合的な光環境を設計する必要がある。生態系への影響を考えると,河川・渓流・海岸でも紫外線に配慮した有機的な設計が必要である。
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