研究概要 |
水田で使用される農薬が河川へ流出する過程をあらわす数理モデルを作成し,流域の地理情報データ・水文情報データ・農薬情報データ等を基に農薬成分流出のシミュレーションを行い,河川水中農薬濃度の実測データと照合比較して,農薬成分の流出挙動に影響を及ぼす因子を検討した.研究対象は十和田湖から流出して太平洋に注ぐ奥入瀬川流域(青森県,幹線流路延長70km,流域面積844km^2)である.流域を1辺5kmのメッシュに分割して,メッシュごとに水分と農薬成分の流出解析に必要なデータを収集した.各メッシュについて,土壌4層(深さ方向の直列タンク)・水田水・水田底泥・河川水・河川底泥の計8個のコンパートメントを考え,農薬散布,降雨・融雪・蒸発散,農薬の分解,コンパートメント間の水分と農薬の移動や固相・液相間吸着平衡等に関するモデル化を行った.解析対象農薬は,除草剤5種類,殺虫剤3種類,殺菌剤1種類であり,解析対象期間は1995年と1996年である. 水分流出モデルによるシミュレーションでは,平常時の河川流量の計算値は全体的によく観測値を再現しており,また,豪雨時についてもピーク流量は比較的よく再現されたものの,積雪・融雪時の流量の再現性は不十分であった.5月下旬から6月上旬にかけて散布された除草剤のほとんどは,散布後の降雨および晴天時の水田からの落水によって河川へ流出したが,農薬流出のシミュレーションにより再現できる場合とできない場合があった.一部の農薬は水田底泥への移行・吸着と再流出の時間遅れがみられ,降雨により流出した後しばらくしてから,農薬が追加散布されていない時期に再び徐々に流出する現象が示された.農薬成分の流出挙動には,農薬の使用量・使用時期,降雨の有無,水田の水管理(引水,排水)といった因子の影響が大きいことが示された.
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