下水および処理下水中の日和見未感染菌であるレジオネラ菌(Legionella pneumophila)を従来法である選択平板培地によって分離検出することは、下水中に混在する多様な選択圧耐性菌の出現によって極めて困難である。そのため、本研究ではPCR法とDNAハイブリダイゼーション法(特にコロニーハイブリダイゼーション法)によってレジオネラ菌のみを定量する識別定量方法について検討した。これによって新たに開発できた方法を下水に適用して、レジオネラ菌が下水処理工程においてどのような挙動を示すかについて調査し、下水処理水の再利用における衛生工学的安全性をこの日和見感染菌の生残値を指標として評価した。 得られた研究実績の概要は以下の通りであった。 (1) L.pnemophilaの種特異部位であるmip DNAをPCRによって増幅し、ジゴキシゲニンで標識したプローブとハイブリダイズさせるサザンハイブリダイゼーションによって、下水中の日和見感染菌を高感度で検出することが可能であることが知られた。 (2) 下水処理工程におけるL.pneumophilaの生残性をPCRとスロットブロットハイブリダイゼーション法によって調査したところ最初沈殿池越流水、最終沈殿池越流水および滅菌放流水中にこの細菌が残存することが強く示唆された。 (3) 本研究によって新たに開発したメンブレン培養・コロニーハイブリダイゼーション法によって、生残している増殖可能なL.pneumophilaを検出することができた。 (4) 実際の下水サンプルについて生残するL.pneumophilaを測定した結果は、未処理下水4620 cells/100mL、二次処理水70 cells/mL、塩素滅菌処理水52 cells/mLであった。 (5) これらのことから、PCR法および本研究で開発したDNAハイブリダイゼーション法による下水中のLegionella属細菌のような日和見感染菌のモニタリングは、今後処理下・廃水の再利用とその安全性を評価するために利用可能であると考えられた。
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