部材温度が上昇すると、鋼材の強度が低下するばかりでなく、線膨張に伴う熱応力が発生するために鋼架構は火災時局部に大きな塑性変形を被る。ところが、終局状態に近づくと架構中の熱応力は漸減しついには消滅する。従って材料の強度低下以外の構造耐力劣化がないいわば単純な架構終局状態は初等的かつ簡明に解けてしまう。この場合の架構の代表温度を基本崩壊温度と呼ぶ。基本崩壊温度の理論的な妥当性は従来から研究代表者が明らかにしている研究成果である。問題は実用耐火設計における基本崩壊温度の妥当性、換言すれば各種耐力劣化要因の影響の大きさ如何であり、これを検討することが本研究の目的である。耐力劣化要因の影響の大きさは、実崩壊温度が基本崩壊温度をどれ程下回るかを明らかにすることによって定量化され得る。本年度は耐力劣化要因として柱の曲げ座屈、及び同じく柱の局部座屈を検討した。検討手段は有限変位と鋼材の詳細な高温塑性を組み込んだ有限要素解析の適用である。特に局部座屈に対しては実情再現性の高い有限要素モデルの開発を試みた。これは本研究の副主題である。検討の結果、次の研究成果を得た。1)柱の火災時における挙動はbeam-columnのそれと同じであり圧縮荷重のみを受けているのではないにも拘らず、柱座屈型架構の崩壊温度は柱の有効座屈長さが適正に評価されるならば中心圧縮柱の理論座屈温度にほぼ一致する。拘束の大きな中柱の座屈発生温度は上記理論値を下回るがredundancyが効くために架構としての崩壊温度は理論座屈温度を上回る。2)局部座屈崩壊型架構の崩壊温度は柱板要素の幅厚比、柱軸力、梁が柱を押し出す効果に依存して基本崩壊温度を下回る。3者をモデル化した閉形の崩壊温度略解を考案し、その妥当性を検討した。3)拘束の大きな中柱では曲げ座屈と局部座屈が重畳する。その効果は柱の曲げ座屈において、局部座屈箇所がヒンジ化するに等価な有効座屈長さの増加と評価され得る。
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