資料調査分析に基づき高層(60階建て)鉄筋コンクリート造(R/C造)建築物モデルを作成し、耐震性検討の地震応答シミュレーション解析を行った。本年度実施テーマとしては、高層建物を対象とした場合のはり降伏先行型の靭性型設計を保証する柱部材強度の動的割り増し係数ならびに2方向地震入力による割り増し係数の建物高さ方向の変動を取りあげた。本年度の研究実施項目ならびに成果の概要は以下の点にまとめられる。 1. 部材(柱、はり)の弾塑性応答解析モデルの考え方について基本的な検討を加えた。多スプリングモデル(Multi-spring Model)と断面要素モデル(Fiber Model)による弾塑性特性を比較し、モデルの限界、特徴ならびに傾向を把握した。 2. 応答自由度が2である系を対象として、系(建物)に入力する地震時エネルギーを各自由度に対応する応答によって消費する設計の考え方の提案を行い、数値計算によってその成立性を検討した。各自由度に対する応答が安定な弾塑性系であるならば、提案する設計法が成立し得ることを確かめた。 3. 靭性型R/C造建物では、架構強度は必要最小限の大きさにとられ、多方向地動が加えられる場合に動的効果ならびに2方向効果によって柱部材に降伏ヒンジが形成されることである。策定した検討モデルを用い、高層R/C造建物について柱部材の設計用応力を定める動的割り増し係数ならびに2方向割り増し係数を検討した。得られた結論は、以下にまとめられる。 (1) 必要な割り増し係数は、建物高さ方向に沿って変動する。設定した外力分布の場合には、低層部では大きな割り増し係数が必要となる。高層部では、割り増し係数は1を下回る(割り増しの必要がない)。 (2) 必要割り増し係数は、設計用応力を定める外力分布に依存する。結果的に、基部転倒モーメントが小さくなる分布の場合に、大きな割り増し係数が必要となる。
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