本研究は、京都都心部の木造建物、特に京町家に着目し、それら活用のための問題点を明らかにする事を目的に各種調査を行い、以下のような研究成果を得た。平成9年度は、既存研究成果およびデータベースをもとに、(1)京都都心部における木造建物ストックの現存状況データベースの構築、(2)それらの老朽度・耐震性の評価と補強・修復方法の提案、を行った。平成10年度は、これらをふまえて、以下のような研究成果を得た。1.京町家構法モデル制作と耐震性の検討:京町家の修復再生技術をまとめ、有効活用への具体的な方策を立案するためには、京町家がどのような原理により成り立っているのかを明らかにする必要があるという観点から、京町家構法の典型を表すものとして京町家構法モデルを作成した。そこから京町家構法の特徴として、(1)部材のウラ・オモテ的使い分け、(2)間口方向の壁量の少なさ、(3)解体・部材交換を考慮した接合部、(4)躯体構造形成コンセプト、を見いだした。さらに耐震補強のための技術開発を行いながら、現存する京町家の耐震性向上のための提案として、(1)構造部材の健全性の確保、(2)柱梁接合部の一体性の確保、(3)耐震性能形成を阻害する要因の改善、(4)土壁の耐震性向上および間口方向の耐震壁の確保、を挙げた。2.維持管理システムの現状と課題、現代的再構築の提案:木造住宅ストックの居住者・使用者の維持管理の内容、現在の問題点および今後のニーズについて分析を行うとともに、各種調査から現在の維持管理システムの検証を行った。そこから得られた知見は、以下のとおりである。(1)日常的なメンテナンスの低下、増改築などの工事によるリフォームの増加、(2)事業用途での使用、多世代居住などで改築改善意向の高さ、(3)京町家における「出入り関係」による維持管理の存在、(4)居住者の経済的状況、借家経営、持ち家政策などによる社会的・経済的変化による維持管理システムの衰退、である。これらを元に今後の維持管理システムの再構築提案を行った。
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