発展途上国、とくに近年の経済成長がめざましいアジア諸国において、さまざまな地域開発が行われているが、伝統的な住環境の保全と活用の点から見て問題となる事例がきわめて多い。本研究は、明快で特徴的な伝統的環境管理システム(部族慣習法パクトゥウヌワイによる)をもつパキスタン北西辺境州の一集落ノーグラムと中心都市ペシャーワルの一地区(モハッラ)を事例にこの問題を明らかにし、適正な地域開発のあり方を検討しようとするものである。 成果は1)パキスタン・ブネール県における地域開発と環境管理、2)ガンダーラ地域における地域開発と遺跡保存、3)ペシャーワルの伝統的市街地と都市住居に関する研究の3部からなる。1)では、当地に住むパクトゥン族の集落を対象に、パクトゥヌワレイと呼ばれる部族慣習法と、Euによって進められているブネール地域開発事業との整合性について検討し、かつて集落の環境管理に大きな役割をはたしてきた慣習法があまり機能しなくなっている現況を明らかにした。2)では、パキスタン北西辺境州に数多く分布するガンダーラ遺跡の現況を、近年の急速な地域開発との関連から考察し、パクトゥヌワレイにみる相続時の共有地創出システムの崩壊と遺跡破壊の関連を明らかにした。3)では、辺境州の州都ペシャーワルに残る伝統的市街地について、モハッラの特徴と、伝統的都市住居のデザインと地域管理について考察し、地域開発あるいは景観保存にあたっての課題を明らかにした。
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