研究概要 |
今年度は炭鉱住宅の平面の推移を分析し,企業の住宅運営および建設実態を踏まえてこれを考察した。 対象地区の中規模炭鉱のなかから,経営主体の属性の異なる3炭鉱を選定した。すなわち,中央資本によって経営されたもの,筑豊地方に複数の炭鉱をもつ地方企業家により経営されたもの,そして,自宅を炭鉱集落の脇に構え,後に町長も務めるような地元の有力者によるものである。 まず,それぞれの炭鉱に存在した炭鉱住宅の建設年代と平面形式を,閉山に際して作成された炭鉱ごとの評価資料と,現存する炭鉱住宅の実測および古くからの居住者へのヒアリングによって復元した。次に,このデータをもとに住戸タイプと建設年代との関連性を考察した。さらに,炭鉱ごとの平面形式および住宅供給の特徴を検討し,これを労務管理の視点から考察した。 分析からは,全体としては炭鉱住宅の平面形式に時代ごとの特徴が見出せ,それらは政策に強く規定されているといえるものの,これを各炭鉱ごとの住宅供給の実態で比較すると,そこには明らかな差異がみられることがわかった。中央資本による炭鉱は,開発初期からさまざまな規模および平面の住戸を供給し,鉱員の出来高や勤続年数に応じて住宅を与えており,経営手段の一環として住宅を位置づけていたといえる。それに対し,地方企業家による炭鉱では,時代ごとに供給される平面プランは画一的で,労務管理的な運営が見られず,単に労働者を収容する器として飯場的に捉えていたと考えられる。また,戦後復興期には国の融資政策に沿った定型の炭鉱住宅が全国的に建設されるなか,地元有力者による炭鉱では戦前と同タイプの住戸が継続的に供給されていることも注目される。 このように経営主体がどのような住宅運営を指向するかによって,炭鉱住宅の住戸計画や供給形態はかなり異なっていたことが明らかになった。
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