用語をとおしての建築における品質管理の慨念変遷を総活的に扱うために、「発注者」「建築家」「請負者(工事担当者)」の関係に注目し、それぞれの関わり方をとらえることから「発注者×建築家」では建築家の職名の変遷、「建築家×請負者」では建築工事請負規定を本年の研究対象に設定した. 建築家の職名の分析からは、歴史的な流れの中で「建築師」「建築技師」「建築士」という変遷過程を経ていたことが明らかになった。最初に登場する明治の中頃まで主流であった「師」は欧米のアーキテクトの訳語として使用されたものであり、この時代は建築家の職業が未分化の、いわばオールマイナティの立場を指す語としての意味をもち、次の「技師」の時代は構造や設備、さらには施工管理に関わるエンジニアリングが主体的な役割を果たしはじめた結果、技師の呼称に至ったといえるが、この頃までは官庁主体の建築設計であり、公共機関の身分上の呼び方が一般に定書したといえる。最後の「士」の時代は、民間事務所の台頭と、その地位の保全が運動として生した時代であり、建築設計者に資格を与えようとする意味がこの用語の中に含まれ、今日のエンジニアとしての「建築士制度」とは一線を画すものであった。 建築工事請負規定による分析は、実際の建物が工事をとおして如何に品質管理されてきたかを扱うもので、物理的な工事以外に保証や引渡し等を含んでいる。具体的には明治20年の「英吉利法律学校」から大正12年の「四会連合建築工事規定」までの5つの請負規定を対象とした。この過程を一言でまとめるなら、請負制度の近代化であり、例えば工事費の呼び方にしても、「価格」「請負金額」「工事費」「請負代金」の変遷をみ、時代が進むにつれて請負契約に即した呼び方に変わっていったことが明らかになった。
|