品質管理に関する用語が一般化するプロセスを捉えるため、建築における特殊性を明らかにするために、物産学から発展し、物品の購入に対して明治の初めから先進的な西欧の概念を積極的に取り入れてきた「商品学」を分析の対象に設定し、この分野で使用されていた用語である「品質」と「品位」の相違を解明し、あわせて商品学と建築学における主要建築材料等の品質管理規定のあり方の違いを研究の主題とした。 明治・大正期の文献から捉えた結果からは、商品学における用語「品質」の概念変遷は、明治中期までは、物そのものもに備わる「品質」概念も多様に解釈され、グレードを示す「品位」と明確な区分が存在せず、科学的な計測方法の確立までは、この品位さえ「産地」で判断されていたプロセスが解明できた。しかし明治末から大正初めにかけて、商品学の分野では「品質」 「品位」の明確な概念の相違が確立され、「品質」さえも明確に位置づけられなかった「建築学」の分野よりもその概念確立が早期であったことが明らかになった。 次に、建築の基幹材料である「木材」 「鋼鉄」 「センメント」を対象に分析した結果、商品学・建築学における品質概念では、両分野とも伝統的に使用されてきた木材は、その概念形成が遅く、江戸末に導入された鋼鉄は比較的早くに品質の概念が導入され、その導入が遅いセメントは初期から科学的品質規定に関する要求も高く、我が国最初の基準となった「農商務省基準」を生むに至った等の類似性が存在し、一方、「商品」学では、細かな品質表示よりは、特に鋼材のように「産地」表示で品質代替させる方式が遅くまで残っていたことが明らかになった。
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