本研究は、我が国における建築生産の品質管理の変遷を使用された用語を通じて明らかにすることを目的としている。すなわち、社会の変貌や技術発展の品質管理概念の連坦関係を導き出すことにある。 研究の内容は、用語「建築」が確立される前の状況と、確立後の「建築家」に対する様々な用語の使用状況、そして生産者側にとって重要な意味をもっていた「請負」の用語とそのバリエーション、さらに他の学問分野として「商品学」を取り上げ、斯分野での品質と品位の用語の定義と品質管理概念の形成過程と建築学との相違の解明に集約できる。 最初の明治初期におけるarchitectの訳語として「造家」と「建築」の二様の語 が使用され、前者はいわゆる建築の専門分野で用いられ、後者は一般的な使用であったが、後者が前者を駆使した結果、技術と工学そのものを内在化させたため、芸術と工学の混乱が生じた。その後は建築家に統一されたが、architectの訳語は建築+接尾語により「師」「技師」「士」の三様が歴史的に用いられ、これは職能の専門分化と強い関係があった。建設会社における広義の品質管理は「請負」という用語に集約でき、民法の制定が影響するが、建築界にあっては必ずしもこの法律の適用では十分ではなく、公共の発注者の態度が強く作用していた。他の学問分野(商品学)との比較では、品質と品位の相違が必ずしも早期に確立された訳ではないが、建築に比べ、より明確な区分が存在し、これは一般学としての性格が強い結果であった。 研究の成果からは、一般化に留意された用語の定義確立が必要との結論を得、過去になされた展開は、多様な環境下にある現在にあっても共通であるといえる。
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