本研究の目的は、様々な要素の集合からなる複雑系としての街並み景観のデザインを支援する形態生成の方法を開発することにある。今年度は、次のような内容の研究を実施し、多くの新たな知見を得ることができた。 (1)既存の街並み景観のデザイン方法の検討 景観デザインの「ガイドライン」、部品を組み合わせて街並みをデザインする「街並みキット」、「建築・学習・遊び」で行われている街や建物の模型づくり、街並みにふさわしいファサードを選択する「デザインゲーム」、景観シミュレーションの方法など、多様な街並み景観のデザイン方法を体系的に整理した。 (2)形態生成のためのルールの抽出 日本の各地に分布する200箇所の歴史的街並みの景観分析から、街並みにリズムがあること、街に統一感を与えるコネクターと変化を与えるシフタ-があること、細部に様々な変形が見られること、道の湾曲が街並みの分節点になっていることなど、多くのルールが発見されているが、それらを形態生成のルールとして体系化した。 (3)形態生成のシステム開発のための基礎研究 街並み景観の構成要素のレパートリーから適当な要素をピックアップし、形態生成のルールを用いて(置換したり、変形したり、重ね合わせたり、並べ替えたり、色彩やテクスチャーを変化させて)、次第に異なった雰囲気の街並みが生成できるようにするシステムを開発するための基礎研究を進めた。特に、人工生命の分野で注目されているセル・オートマトンや遺伝的アルゴリズム、フラクタル幾何学等で考案されているルールの定式化の方法を用いて、多様でありながら統一性のある街並みをデザインする可能性を探った。
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