研究概要 |
介護負担の軽減や介護機器の活用には,適正な介護寸法や介護動線などを明らかにすることが大切であるとの視点から,介護空間別による移乗や誘導をおこないやすい具体的な寸法に関する郵送アンケート調査を,全国の特別養護老人ホームに対して実施した。 1)有効回答数は1,299件(回答率:43.37%)であり,男女比率では38:62であった。 2)介護型車いすとベッド間には,1,040mm以上の介護幅があれば搭乗動作には支障をきたさないが,介護現場での搭乗幅は900mm以下が過半数を占めており,介護しやすい幅員の確保はもとより,要介護者の心理的な適正距離にまで踏み込んだ介護空間の改善が大切とされる。 3)廊下でストレッチャを回旋させるには,介護に支障をきたさない介護幅として2,350mm以上,車いすであっても2,100mm以上が望ましいという結論を導くことができたが,調査結果からみる限りでは1,800mm以下の幅員が42.3%にも達していた。 4)居室空間や廊下空間の介護状況に加えて,搭乗動作あるいは誘導動作が頻繁におこなわれる浴室,便所およびエレベータなどでの各介護空間においても,実際の介護幅と介護しやすい幅との間には大きな格差が認められた。 5)介護空間の狭さによる車いすやストレッチャなどの使用のしにくさ,介護動線の複雑化による介護効率の悪さなどの主訴率がそれぞれ半数近くを占めていた。 これらの課題の解決に向けては,要介護者の身体機能に応じた介護技術の活用,機器支援による身体負担の軽減や作業効率の向上などを図ることはもとより,施設計画の段階から適正な介護空間条件を前提とした設計指針の展開が望まれる。
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