研究課題「松江藩御大工とその作事について」での基本史料は『御作事所御役人帳』である。『御作事所御役人帳』は松江藩御作事所に関する重要資料であり、整理作業を進めてきたが、史料の解読もおおかた終了し、地方(松江藩)における作事組織の全容を把握することが可能になった。 また、御作事所の中心的存在である御大工等の系譜の読み取りも可能になり、松江藩御大工の構成と推移について検討を進めてきた。 松江藩御大工が関与した建物(作事)は、取り壊されたものも意外と多いことがわかり残念である。今年度の建物調査は、松江藩内にある建物を中心に行った。特に、松江藩御大工が関与したとされる寺社建築(菩堤寺月照寺の廟門等)や住宅を中心に実施調査した。神社等の調査は継続中だが、家中屋敷三谷家住宅については調査を一応終了し、その成果を、日本建築学会中国支部で「三谷家住宅について松江藩御大工の研究(その5)」と題して3月に発表した。この建物は家中(家老)屋敷の奥座敷だったものだが、今回の研究テーマの背景となっている研究課題「近世出雲地方の建築空間形成に関する研究」について示唆する貴重な建物であることも判った。なお、建物等の調査では、専門家(建築士)の協力によって行った。 来年度は、科学研究費助成の最終年になるが、これまでの研究成果をまとめる予定である。その方法としては、補足調査を踏まえて、研究成果報告書の作成に重点を置く予定であるが、『御作事所御役人帳』は貴重な資料だけに、翻刻も検討したい。
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