研究概要 |
TiNi合金はマルテンサイト相が安定な温度域、すなわち、応力誘起変態が起こる温度(Msσ)以下では40〜60%の破断伸びを示し、ひずみ誘起変態の起こる温度以上では30%程度に減少する。 Mf温度以下で変形すると、ひずみ量の増加に伴い格子不変変形である〈011〉TypeII双晶及びそれらより構成される兄弟晶界面の移動が起こり、続いて(100)及び(001)複合双晶が生成する。さらに変形を加えると(20-1)複合双晶が導入される。この双晶は本研究で発見されたものであり、せん断変形量はs=0.4250と極めて大きく、加えて3つの変形双晶の発達により独立したすべり系が増加し優れた延性が保証される。応力負荷によってマルテンサイト相が安定となるMs〜Msσの温度域では最終的な変形組織は上記と同様となり良好な延性が発現する。Msσ以上では母相の降伏後、ひずみ誘起マルテンサイトが局部的に発生するが、変形量が増加してもマルテンサイトの成長は起こらず、高密度の複合双晶が、マルテンサイトの内部にのみ観察された。すなわち、母相に比べ軟らかいマルテンサイト相のみに変形が集中することが知られた。Msσ以下で破断した試料を加熱すると、(100)、(001)複合双晶は消滅し、(20-1)複合双晶に対応する界面のみが残留する。この界面は電子回折及び高分解能観察により(114)B2双晶であることが判明した。Gooら(Actametall.,33,1725-1733(1985))は母相の変形が{114}B2複合双晶によって担われていることを報告しているが、本研究の結果より{114}B2複合双晶はマルテンサイトの変形によって生じる(20-1)複合双晶が逆変態後も残留した不可逆欠陥と考えられる。以上より室温近傍のB2母相の良好な延性には応力誘起マルテンサイト変態が関与していることが示唆された。
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