研究概要 |
片状黒鉛を晶出した黒鉛晶出型クロム白鋳鉄(FG-alloy)および球状黒鉛を晶出した黒鉛晶出型クロム白鋳鉄(SG-alloy)の耐摩耗性について検討した。鉄基地,M_7C_3クロム炭化物,黒鉛の3相からなるこの材料はロール材として開発された経緯から、大越式摩耗試験機およびピンオンディスクタイプの摩擦摩耗試験機を用いすべり摩耗を中心に実験を行った。各構成相はそれぞれ次のような特徴を持っている。(1)鉄基地は熱処理によって硬さや引張強さが向上するため材料全体の強化がはかられる。(2)クロム炭化物はセメンタイトに比べるHv1800と高硬度でしかも強靱に優れ,主にこの材料の耐摩耗性や剛性を担う。(3)黒鉛は固体潤滑剤としての潤滑作用が期待される。なお,比較材として,高クロム白鋳鉄ロール材の組成を目標にした2.6C-15Cr合金を用いた。 大越式摩耗試験は,摩擦速度を9水準,摩擦距離を5水準それに荷重を2水準の条件で行った。摩擦摩耗試験は,摩擦速度を4水準とし,摩擦距離,荷重は一定の条件で行った。なお,各試料には2種類の熱処理(1223Kで1時間保持後,空冷または油冷)を施し鋳放し試料と比較検討した。 各試料の硬さはFG-alloyおよびSG-alloyが,熱処理条件によらずそれぞれ約HRC53それに約HRC57であるのに対し,2.6C-15Cr合金は鋳放しのHRC44から熱処理後はHRC60以上になった。大越試験の結果からは,とくに高摩擦速度側で各合金の差が現れ,耐摩耗性はSG-alloyがもっとも優れ,以下FG-alloy,2.6C-15Cr合金の順になった。いずれの合金も摩耗量-摩擦速度の関係は低速度側にピークを有する一般的な曲線となった。また,鋳放しに比べて熱処理による耐摩耗性の改善は見られなかった。一方摩擦摩耗試験では,大越式ほど各合金間の差は現れなかったが,摩擦速度と摩耗量の関係はおおまかには低速度側にピークを有するプロファイルになり,低速度側が谷になる摩擦係数とは全く逆の傾向を示した。
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