ステンレス鋼を塩化鉄(III)水溶液中に浸漬すると、孔食発生・成長に伴って腐食電位が卑化し、やがて再不動態化条件を満たすと成長が停止(再不動態化)して電位が貴化する。このような自然腐食で観察される電位変動は、ステンレス鋼上での局部アノード溶解反応とカソード反応とのバランスに基づいて生じている。本研究では、1)アノードとカソードとを人工的に分離し、両者を短絡させることで、電位変動と電流とを同時に測定する方法、2)予想されるカソード特性を予めコンピューターに入力し、ポテンショスタットを人工カソードとして作動させることで、孔食発生・成長・再不動態化による電位変動を生じさせるとともに、電流を同時に測定する方法、の2つの方法を用いて、自然浸漬試験では本来測定できない内部電流を評価した。塩化鉄(III)水溶液に浸漬されたステンレス鋼上に孔食が発生すると、腐食電位は塩化鉄(III)濃度が低いほど鋭く卑化し、より短時間で再不動態化した。短絡試験によって電位と電流を同時に測定した結果、電位と電流の関係は、ステンレス鋼上での鉄(III)のカソード還元曲線に沿って変動することがわかった。次に、ステンレス鋼上での鉄(III)イオンの還元に対する分極曲線をコンピューターに入力し、この分極曲線に沿って電位が変動するようにプログラムして、鉄(III)イオンを含まない塩化物溶液中で孔食試験を行った結果、短絡試験で測定された電位変動と同様の電位変動が観察された。これらの結果から、実際の酸化剤を使用することなく、任意の酸化剤のカソード特性を模擬した孔食試験を行うことが可能となった。
|