1. 目的 本研究では、酸化物/水溶液界面に生成している不働態酸化物皮膜表面の表面電子準位を調べ、表面準位のエネルギー位置、密度と不働態皮膜の耐食能との関連を調べる。酸化物皮膜の性状と耐食性との関連において、紫外光照射に伴って生成する表面準位の皮膜性状への影響を明らかにしていく。これまでの研究では、鉄ならびにチタンの不働態酸化物皮膜に注目し、紫外光照射励起に伴う励起正孔ならびに表面状態の変化による皮膜の変質をエリプソメトリーならびに電極インピーダンスから調べた。 2. 結果 紫外光照射下で、酸化物不働態皮膜の変質が測定できるエリプソメーターを作製した。このエリプソメーターを用い、鉄ならびにTiのアノード不働態酸化物皮膜の紫外光照射に伴う変化を測定した。チタン不働態皮膜の変質は溶液pHに依存する。溶液pHが2以上では、皮膜の屈折率が減少し、皮膜は厚くなる。つまり、酸化物から水酸化物への変化が見られる。一方、pH1程度の酸性水溶液中では、初期に同様な水酸化物皮膜への変質が見られるが、長時間の紫外光照射で光電気化学溶解が起き、皮膜の薄膜化が起こる。紫外光照射に伴う正孔生成、表面準位形成を経由して皮膜溶解あるいは皮膜の水和がpHに応じて起こると推定される。インピーダンス測定から、この水和あるいは溶解に対応した皮膜酸化物の電気容量変化が見い出せた。以上の結果から紫外光照射はn型酸化物皮膜内での正孔生成、続いて起こるドナー生成と表面準位生成が起きると推定される。鉄不働態皮膜に関しては、皮膜が薄すぎるため詳細な測定はできなかったが、皮膜の水和が紫外光照射とともに起こる結果が得られた。
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