研究概要 |
近年,材料の軽量化や複合化などによる高機能化にともない,板材成形の分野でも,これまで加工の対象としてこなかったような材料への対応がせまられている.鉄鋼材料を例にとれば,軽量化を目的とした高強度鋼板,耐食性や美的要求からの表面処理鋼板やステンレス鋼板の使用などが挙げられる.これらの高機能,高付加価値化は,板材成形においては必ずしも好都合とはならず,むしろ成形性の低下をもたらす場合が多い.新材料に適した成形技術および成形条件を確立するためには,まず,成形中の材料の破断予測を的確に行えるようにすることが不可欠である. 従来,板材の成形限界予測には塑性不安定ないし分岐理論が広く用いられてきた.しかし,塑性不安定ないし分岐理論による予測は,材料の塑性特性が十分に把握され,精度よく数式化されていることが前提となる.種々の高機能鋼板の場合,それらの塑性特性は不明な点も多く,また,それぞれの鋼板について,個々に複雑な塑性構成式を作成するのも得策とは考えられない.さらに,くびれの明瞭な発生なしに破断するような材料,あるいは加工硬化指数のn値よりも伸びが小さいような材料の場合には,塑性不安定理論や分岐理論から破断予測することは非常に困難である. これに対し,本研究組織は最近の研究で,より基本である破壊という現象に着目することによって,成形限界予測の適用範囲を広げることを試みている.すなわち,板材成形の有限要素シミュレーションで計算される応力・ひずみ分布およびそれらの履歴から,延性破壊条件式を用いて破壊発生の有無を予測する方法を提案している.本年度は,種々の特殊鋼板を含む板材の深絞り,穴拡げなどの基本的成形における破断予測モデルを作成した.
|