AE信号の定量的評価を行うために、いくつかのAE発生現象を用いて、基礎的なデータの収集を試みた。まず、Au-24.4mass%CuおよびPd-45.0mass%Cu合金を用いて、加熱/冷却過程における規則-不規則変態および規則化過程のAE挙動を調べた。Au-Cu合金では、規則相から不規則相への変態を示す420℃で多くのAEイベントが計測され、その溶体化試料では、不規則相から規則相への析出開始点である200℃付近においてもAEイベントが多数計測された。Pd-Cu合金では、β相(規則相)からα相(不規則相)への変態を示す630℃で多くのAEイベントが計測され、その溶体化試料では、α相からβ相への析出開始点である400℃においてもAEイベントが多数計測された。これらのAEイベントのピーク温度と生じている現象との対応を図るため、示差熱分析、硬さ測定およびX線解析によって、規則-不規則変態および規則化過程のAEを捉えていることが明らかにされた。また、規則-不規則変態は、加熱/冷却速度に依存する協力現象であることも、AEのRMS電圧測定により明らかにされた。一方、規則化過程は、溶質原子の拡散に伴う熱活性化過程であることを利用して、Pd-Cu合金溶体化試料の等温時効中のAEのRMS電圧継続時間を測定することによって、この過程の活性化エネルギを計測した結果、140KJ/molが得られた。この値は、他の計測法による結果とよく一致しており、Pd中へのCuの相互拡散の活性化エネルギとよく対応していた。次に、Cu-Al-Ni合金のマルテンサイト変態中のAE挙動およびNi_3Al金属間化合物の塑性変形中のAE挙動を検討した。前者では、疲労損傷を導入することにより、変態挙動の変化を捉え、後者では、様々な結晶粒界を導入することによりAE発生源の同定を行った。得られたAE挙動は、マルテンサイト変態速度および転位の不均一運動と密接に関係していることが明らかにされた。以上より、種々のAE信号の定量的評価に関する基本的な指針が得られた。
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