平成9年度から平成10年度の2年間、AE信号の定量的評価を行うために、材料中でのいくつかのAE発生現象を用いて、基礎的なデータの収集を試みた。まず第一に、Al-Li合金、Ni_3AlおよびTiAl金属間化合物の塑性変形中のAE挙動を検討した。運動転位の動的挙動を、転位と析出物、転位と侵入型溶質原子および転位と結晶粒界等の相互作用と言う観点から考察した。降伏点付近の転位の運動は、析出物の粒径や規則度、規則構造や粒界構造により、著しく影響を受けることが明らかになった。次に、Cu-Al-Ni形状記憶合金単結晶のマルテンサイト変態中のAE挙動を検討した。相変態中に発生するAEは、体積効果がないことを明らかにし、マルテンサイトの核発生および成長の動的挙動に強く依存していることが確かめられた。AE波形解析を行うことにより、マルテンサイトの核発生および成長速度を評価することが可能になった。最後に、Au-Cu合金、Pd-Cu合金および歯科用材料の加熱/冷却過程におけるAE挙動を検討した。材料内の規則/不規則変態、規則化過程およびガラス転移点付近でAEの発生が初めて見い出された。これによって、従来から、拡散を伴う変態ではAEは発生しないとする考えを修正することができた。規則/不規則変態は、加熱/冷却速度に依存する協力現象であることを、AEのRMS電圧測定により明らかにした。規則化過程は、溶質原子の拡散に伴う熱活性化過程であることを利用して、RMS電圧の継続時間を測定することによりこの活性化エネルギを求めることができ、他の計測法による結果とよく一致した。また、これらの変態過程の反応エネルギを熱分析により求め、検出したAEエネルギと比較した結果、比例関係にあることが明らかにされた。この比例係数は、材料に依らないことが示された。以上より、AE発生を特定することにより、種々のAE信号の定量的評価に関する基本的な指針が得られた。
|