本研究では、水溶液からの電析が不可能な希土類金属およびその合金薄膜を得る手段として非水溶媒からの電析に着目した。非水溶媒としてここではとくに非アルミネート系室温溶融塩について、溶融塩の合成を行うとともに、希土類塩の溶解性と酸化還元挙動を調べた。 室温溶融塩として1-エチル-3-メチルイミダゾリウムカチオンのトリフルオロスタンスルホン酸塩(EMITfO)およびトリフルオロメタンスルホンイミド(EMITf_2N)、トリメチルヘキシルアンモニウムトリフルオロメタンスルホンイミド(TMHATf_2)を合成した。その結果以下の知見を得た。 (1) 希土類塩Eu(TfO)_3およびNd(TfO)_3は室温溶融塩EMITfO中には少なくとも0.1M溶解するが室温溶融塩EMITf_2N中にはほとんど溶解しない。また、希土類塩Eu(Tf_2N)_3およびNd(Tf_2N)_3は室温溶融塩EMITfO中およびEMITf_2N中に少なくとも0.1M溶解する。 (2) Nd(Tf_2N)_3はTMHATf_2Nに0.1M以上溶解する。 (3) EMITf_2N中での反応Eu^<3+>+e=Eu^<2+>の酸化還元電位はEMITfO中での酸化還元電位に比べて約1.5V貴であった。このことから希土類金属の電析浴の溶媒としては、EMITf_2Nがより適していると考えられる。(1)および(2)については、室温溶融塩のアニオンであるTfO^-がTf_2N^-に比べてルイス塩基性が高いため希土類イオンとの結びつきが強いことに起因すると考えられる。 (4) EMITfOおよびEMITf_2Nは約4.0V、TMHATf_2Nは5.0V以上の電位窓を有する。 (5) EMITfO中にNd(TfO)_3を0.08M溶解した溶融塩を1mAで定電流電解後、溶融塩の紫外可視吸収スペクトルを測定したところ、Nd^<3+>の量を表す吸収強度が減少した。このことからNd金属が電析している可能性がある。 以上より、室温溶融塩は希土類電析溶媒として適していると考えられ、本研究で得られた知見をもとに、今後も引き続き研究を行って電析条件の最適化等に取り組む予定である。
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