本研究では、これまでに液体内部の原子構造の解析に用いられてきた分子動力学法を利用して、実験的に観察できない多成分系融体の表面近傍の原子構造や表面近傍の融体成分原子の分布の偏り具合(表面偏析)の解析などを行うことを目的としている。 分子動力学法を多成分系高温融体の表面構造の解析に適用した例は数少ないため、まず、レナード-ジョーンズポテンシャルで記述できる単純な構造の液体の表面構造の解析を行うための分子動力学プログラムを作成した。そのプログラムの妥当性を確認するために、純液体アルゴンおよびクリプトンに対して、1)自由液体表面、2)2枚の板で挟んだ固体壁近傍の液体表面、3)基板上の液滴の濡れ性を検討し、それぞれの物理現象を再現できることを確認した。 また、モデル系融体を利用して、純成分の表面張力の値や成分間の相互作用エネルギーを変化させて、溶体の表面張力や構成成分の表面偏析や表面吸着を上記3つの現象に対して分子動力学法で計算した。その結果より、成分間の相互作用と表面偏析の関係に関して表面に対するマクロな立場からの熱力学的計算結果との対応が明確に成り立つことを明らかにした。
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