本研究では、海老や蟹の外殻成分であるキチンを脱アセチル化して得られるバイオ新素材であるキトサンに銀や白金族元素を分子スケールで分散させた貴金属担持キトサン微粒子を合成し、これを用いた有機リン系農薬の制御徐放製剤及び高性能吸着剤をとしての応用を以下に従って研究した。 1.銀担持キトサン微粒子吸着剤の合成 合成は、キトサンと硝酸銀(I)を溶解させた希酢酸水溶液を、乳化剤を含む有機溶媒(主としてヘキサン)中へ分散させ、超音波照射を行うことによって油中水滴型乳化液を形成させ微粒子化した。これにグルタルアルデヒドを加えて微粒子の架橋安定化を行う。その後微粒子を取り出し水洗後、凍結乾燥させた。 2.銀担持キトサン微粒子吸着剤への農薬の吸脱着平衡実験 実験方法はバッチ法で行った。すなわち、予め水溶液中に有機リン系農薬(メチルパラチオン)を溶解させた水溶液の中に、銀担持キトサン微粒子吸着剤を分散懸濁させ、吸着平衡に達せ占める。分析は、紫外可視分光光度計を用いて行った。この実験から、水溶液pHが上昇すると農薬の吸着量が上昇する傾向を示した。また、農薬の吸着実験に使用した溶液の一部を取り出し、原子吸光々度計により銀濃度を測定し、担持した銀の微粒子からの漏洩の有無を調べたところ、機器分析の精度以下の漏出であることが分かった。以上の結果から、本銀担持キトサン微粒子吸着剤は、農薬の高性能な吸着剤であることを明らかにした。この研究成果は、平成10年6月11〜12日大分県別府市で開催される第12回キチン・キトサン・シンポジウムで発表予定である。 3.人工脂質をコーティングした有機リン系農薬内包キトサン微粒子の合成 合成は、1.とほとんど同様であるが、有機リン系農薬(メチルパラチオン)を同時に溶解させて行うところが異なる。さらに、合成した微粒子を人工脂質のエタノール溶液中へ分散させ、エタノールを留去した後、水中へ分散させて脂質の相転移温度以上に暖めることによって脂質の多重層を再構成させることによって合成した。人工脂質をしては、農業用であるため、春期から夏期の気温付近でゲル-液晶相転移温度を有するジオレイルリン酸エステル誘導体(Tc=17〜25℃)を用い、微粒子にコーティングした人工脂質の相転移挙動の測定は、示差走査熱量計(DSC)を用いて行った。
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