銀表面での酸素とエチレンの共吸着はエポキシド生成に関して工業的にも重要な系であり、今も触媒の改良が行われている。理論計算もいくつか報告されているが、我々は、より大きな中性クラスターモデルを用いて、分子状、原子状酸素を経由する反応経路について検討を行った。分子状酸素の吸着安定化エネルギーは16kcal/molであるが、エチレンを共吸着させると4kcal/molまで減少する。これはエチレン付加が活性化吸着であり、遷移状態(TS_1)が存在することを意味する。Ag-O_2-C_2H_4からエポキシド生成の遷移状態(TS_2)の活性化エネルギーは5kcal/molであるが、酸素吸着状態(Ag-O_2)からは21kcal/molとなる。TS_2後、エポキシドと原子状吸着酸素(構造を表示)を生成し大きく安定化する。アセトアルデヒド生成による安定化は、より大きいが、TS_2に相当する活性化エネルギーが、さらに大きいので反応は選択的にエポキシドを生成する。 原子状吸着酸素の安定化エネルギーは、13kcal/molである。この場合はエチレンの付加により安定化は7kcal/mol増加する。このエネルギーから測って、18kcal/mol高い遷移状態(TS)を経てエポキシドを生成する。この場合は、TS後の安定化は小さい。原系からTSをみた場合、原子状酸素による経路の方がやや有利である。完全酸化反応機構として原子状吸着酸素の場合に、中間体と考えられるアセトアルデヒド生成反応を、Ag_5モデルを用いて調べた。CH_2CH_2-OAg_5からCH_3CHO-Ag_5への活性化エネルギーは1.5kcal/molと計算された。これはエポキシド生成の活性化エネルギーよりも、わずかに大きいだけであるので、選択性が低いことが予想される。
|