近年、DNAと相互作用を有する化合物に関する研究が、生体系でのDNA認識のメカニズムの模倣やそのモデル化合物として注目されている。また、DNAを位置特異的に切断する機能や、位置特異的に認識する、またはインターカレートする機能などは、制癌剤を始めとする新規薬剤の重要な新しい機能性の一つとして注目、要求されている。本研究は、グルコースが複数個環状に結合しその疎水性空洞に種々の有機化合物を取り込みコンプレックスを形成する能力を有するシクロデキストリンに対し適当な残基を導入することによりDNAインターカレート能を有する修飾シクロデキストリンを合成し、DNAに対する相互作用(認識・切断)や、ドラッグ・デリバリー・システム、ドラッグ・ターゲッティングに対する利用、応用などを検討することを目的としている。 昨年度までに、、グルコース7つからなるβ-シクロデキストリンの1級水酸基側にアントラセン残基を一つ有しリンカー鎖の構造が異なる2種類の化合物を合成した。この2種類の化合物は、化合物単体においてもアントラセン残基のシクロデキストリン空洞に対する配向が異なっていることが確かめられたが、ゲスト化合物を添加した後もアントラセン残基のシクロデキストリン空洞に対する配向が異なっていることが、NMR、円二色性スペクトルの測定などより明らかになった。これは、リンカー鎖の構造によるアントラセン残基の移動の自由度との差異と、シクロデキストリン空洞の疎水性とバルクな水層との環境差のバランスによるものと思われる。また、このような構造の違いが、DNAとの相互作用に影響を及ぼしていることも明らかとなった。現在は、さらに、アントラセン残基に対し大きな自由度を与えるため、リンカー鎖としてジエチレントリアミンを用いた化合物の合成を行なっている。 以上のように、構造の異なる種々のアントラセン修飾シクロデキストリンを構築し、単体、およびゲスト化合物添加時の構造の差異による異なったDNAインターカレート能に対する知見を得ることに成功し、さらに発展させることを試みている。
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