蛋白分子の機能向上は、対象とする蛋白質の遺伝子に部位特異的にあるいはランダムに変異を導入し、その変異蛋白質を発現させ、その変異を評価することを繰り返すことで進められる。遺伝子の変異は多くの場合PCRを用いてin vitroで行われるが、その発現は通常大腸菌などの生細胞を用いている。従って非天然型アミノ酸をも含む蛋白質の機能の最適化のためには、無細胞系でのライブラリー構築システムが不可欠である。 私は生細胞を全く使わずに、PCRと無細胞蛋白合成反応によるライブラリー発現システムを開発した。ランダムに変異導入した鋳型DNA分子集団を限界希釈し、96穴プレート上でDNA一分子を鋳型としたPCR反応(Single Molecular PCR)により変異DNA分子をクローン化する方法である。96穴プレート上でDNAライブラリーが構築でき、それを鋳型として無細胞蛋白合成反応を行わせることで、蛋白質ライブラリーを迅速に得ることができる。 これまで1個の細胞からDNAを増幅した例はあるものの、PCR産物の1分子からの増幅を確認した例はない。そこで我々はあらかじめ3塩基のランダム配列を含んだプライマーによりDNAを増幅させ、そのDNA断片を1分子/ウェルまで限界希釈した。それを鋳型として増幅したPCR産物を直接DNAシークエンサーにかけて、そのランダム部分のDNA配列を調べた。真に1分子から増幅されたものでれば、ランダムな列びの1配列として判読可能であるが、多分子から増幅されたものならばシグナルが重なってしまい、一つの配列として読みとることは不可能である。実際この部分の配列が読みとり可能なPCRの条件を見いだし、1分子からの遺伝子増幅を確認した。
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