アミノ基を有する塩基性多糖キトサンと酸性多糖の複合体化により調製される高分子電解質複合ゲルはpH応答型の膨潤特性を示す。本研究では、主としてデキストラン硫酸を酸性多糖として用いた場合について、膨潤特性の解析を行うとともに、腸管内のpH変化を利用した内包薬剤の経口的放出制御システムへの応用の可能性を検討した。膨潤特性に関してはドナン平衡理論に基づく解析を行い、アミノ基の脱プロトン化が膨潤ないし収縮時の平衡体積の著しい変化の原因であることを明らかにした。また、アミノ基過剰の複合ゲルで観察される中性付近での著しい収縮現象を利用した場合の内包薬剤の放出制御効果を、高分子薬剤のモデルとしてデキストラン、牛血清アルブミンやラクトフェリン、低分子薬剤のモデルとしてインドメタシンを用いて検討した。アミノ基と硫酸基のモル比が1.4の複合ゲルを用いた放出実験の結果、ゲルの収縮に伴う絞り出し効果は、デキストランの見かけのゲル内拡散係数を3〜10倍に増加させる効果のあることが明らかになった。また、pH6以上においてゲルの収縮および静電的な相互作用により牛血清アルブミンの放出が促進されること、ラクトフェリンはその等電点以上のpH8.8で長時間にわたって緩慢な放出が持続することが示され、ゲルの収縮とともにゲルと内包物との静電的相互作用が放出特性に大きな影響を与えることが明らかになった。さらに、インドメタシンを内包させた場合については中性付近のpHで徐放性を示す事が明らかになった。以上の結果、複合ゲルを用いた外部pHの変化に基づく内包薬剤の放出制御の可能性が示された。
|